非上場株式の相続税評価で「総則6項」を適用した国税当局の判断をめぐり争われた「相続税更正処分等取消請求事件」の裁判、いわゆる〝仙台薬局事件〟の裁判は、国が上告しなかったことで納税者の勝訴が確定しました。東京高等裁判所が国の控訴を棄却していたもの。上告提起の期限を経過した時点で、国が上告しなかったことが分かりました。
この事件の経緯と概要を振り返ります。第三者への自社(非上場会社)株式売却によるM&Aを進めていた代表者(被相続人)が基本合意契約締結後に死亡。相続発生後に法定相続人らが交渉を引き継ぎ、基本合意に基づく譲渡予定価額とほぼ同額の1株当たり10万5,068円で実際に株式譲渡。相続人らは通達評価額(類似業種比準価額)を用いて1株当たり8,186円で計算して相続税を申告しました。
これに対して国税当局は相続財産の評価が「著しく不適当」であると判断。課税庁が相続財産の価値を〝合理的〟に評価・課税する「総則6項」を適用し、鑑定評価額である1株当たり8万373円とすることが適当であるとして更正処分を行いました。相続人らはこの処分を不服として提訴しました。
被相続人が東北地方を地盤として薬局チェーンを展開する会社のオーナー経営者だったことと、国税当局の〝伝家の宝刀〟とされる「総則6項」の適用をめぐる裁判であることなどから、税理士・会計事務所業界では、いわゆる〝仙台薬局事件〟として認識され、その行方が注目されていました。裁判では、「取引相場のない株式を『総則6項』の適用によって評価することの適否」と「『特段の事情』の有無」が争点となりました。
東京地方裁判所は1月、総則6項の適用を認めず、更正処分と過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取り消す判決を下しました。国は控訴しましたが、東京高裁が8月にこれを棄却。9月までに国が上告しなかったことが明らかとなり、納税者の勝訴が確定しました。
<情報提供:エヌピー通信社>