取引先の倒産時に備えて掛け金を納付する「中小企業倒産防止共済制度」をめぐり、一部の個人事業主が解約時の返戻金を収入計上せず、適切に所得税を納めていなかったことが会計検査院の調査で分かりました。申告漏れは調査対象だけでも約3億円超に上るとみられ、検査院は国税庁に対し確定申告時の審査体制を整備するなど改善処置を要求しました。
同制度は、取引先が倒産して売掛金が回収困難になった場合に、掛け金の10倍以内で貸し付けが受けられるもの。毎月払う掛け金は経費計上ができますが、解約時には返戻金が支給され、その返戻金額は総収入金額または益金の額に算入することが原則義務付けられています。益金として当然、所得税の課税対象となります。しかし検査院によると、「(国税当局は)返戻金額の収入計上を行う必要があることを納税者等に対して具体的に周知していなかった」そうです。
検査院が全国34税務署を調査したところ、2016~18年に共済を任意解約した個人事業主464人の4割に当たる189人が、返戻金計約3億2,600万円を受け取ったにもかかわらず、適切に収入計上していない可能性があることが判明しました。掛金納付額の経費計上についても、納税者が適切な申告を担保するための措置がとられていませんでした。
また検査院が個人の掛け金納付者1,567人について調査したところ、書類に不備が認められるケースが906人(約6億円分)に及んでいました。検査院は、国税庁が納税者の意思表示に必要な記載項目を示した明細書の様式が定められておらず、「個人の納税者の適切な申告を担保するための措置を執っていない」と指摘しています。
検査院の指摘を受け、国税庁は今夏に法令解釈通達を改正し、確定申告の申請様式を変更しています。また掛け金の明細書など、必要な添付書類を明示したものにしました。
検査院は国税庁に対し、今後は返戻金額につき不適切な収入計上の申告を可能な限り防止するとともに、税務署の書面審査で納税者が共済契約の解約者であるかどうかなどを確認した上で、返戻金額が適切に収入計上されていることの審査を行うよう求めています。
<情報提供:エヌピー通信社>