政府が毎月、生活に必要最低限のお金を配ってくれる――。ベーシック・インカム(BI)と呼ばれる、そんな夢のような制度が世界で注目されています。既存の税制や社会保障制度に与える影響が大きく、一朝一夕に導入とはいきませんが、新型コロナウイルス禍を受けて国内でも議論が活発化しつつあります。

 BIは、政府が就労の有無や収入の多寡にかかわらず、無条件で全ての個人に一律同額の現金を配る制度。景気刺激ではなく貧困解消が目的とされます。「富裕層にも配るのはおかしい」「財源がない」などの理由から主要国で本格導入した例はまだありませんが、経済学者の間では古くから研究されてきました。

 近年、人工知能(AI)の発達による大量失業対策として先進国の一部で注目されていましたが、コロナ禍で飲食やサービスをはじめ幅広い業種の需要が蒸発。長期間にわたり生活基盤を失うリスクが強まり、世界各国でBI導入に向けた動きが広がっています。

 6月、スペインでは所得制限はあるものの低所得の85万世帯を対象に現金給付を開始。米国でもロサンゼルス市など11自治体の首長がBI実験の連合を結成しました。国連開発計画(UNDP)は7月、月1990億ドル(約21兆円)あれば132の途上国の貧困層27億人の生活を保障できると試算し、臨時でBIを導入すべきとの報告書を公表しました。

 国内でも、コロナ対策で実施した1人10万円の給付が「世界で最もBI的」(有識者)と評価されます。また「ZOZO」創業者の前澤友作氏は1千人を対象に1人100万円ずつ配るなど、消費や労働、価値観などに与える影響を調べる実験を4月から実施中です。

 最大の課題である財源を巡っては、年金や失業給付、児童手当、生活保護など社会保障制度の「現金給付」と置き換える案のほか、所得控除の縮小など所得税の組み替えで対応すべきとの案もあります。政府は今のところ慎重姿勢ですが、コロナ禍の行方次第では、国内でも今後機運が高まる可能性は否定できません。
<情報提供:エヌピー通信社>